トール:雷鳴轟く最強の戦士、ミョルニルを振るうアース神族の守護者

「複雑な儀式も、深遠な謎も必要ない。このハンマーが一振りあれば、すべての巨人は塵に帰るのだ」 北欧神話において、最も武勇に優れ、そして最も人間に親しまれた神。それが雷神 トール(Thor) です。主神オーディンの息子でありながら、父のような狡猾さや魔術とは無縁で、ひたすら純粋な「筋肉と破壊力」によって神々の国アースガルズと人間の国ミッドガルドを守り抜きました。

庶民の味方:知恵よりも圧倒的な拳を
オーディンが貴族や王、知識人に崇拝されたのに対し、トールは農民や平民に絶大な人気を誇りました。
その理由は、彼の性格が極めて直情的で分かりやすいからです。彼は嘘をつかず(つけず)、腹が減れば牛二頭を平らげ、巨人が悪さをすればハンマーで叩き潰す。このシンプルで力強い守護のあり方が、北欧の過酷な自然の中で生きる人々にとって、最大の心の拠り所となりました。
聖遺物:ミョルニルと怪力を支える三神器
トールの強さを支えているのは、ドワーフたちが鍛え上げた三つの魔法の武具です。
ミョルニル(粉砕するもの) : 投げれば必ず敵に当たり、手元に戻ってくる最強のハンマー。雷の正体はこの打撃の音だとされました。
メギンギョルズ(力のベルト) : 締めるとトールの怪力をさらに倍増させる魔法のベルト。
ヤールングレイプ(鉄の手袋) : 熱せられたミョルニルを握るために不可欠な、鋼鉄の籠手。
これらがあるからこそ、彼は巨大な山を砕き、神々に仇なす巨人を一撃で葬り去ることができたのです。
宿命のライバル:世界蛇ヨルムンガンド
トールの神話において欠かせないのが、ロキの息子である大蛇 ヨルムンガンド との因縁です。
かつて、トールは牛の頭を餌にしてヨルムンガンドを「釣り上げる」という無茶な試みを行いました。大蛇を海面に引きずり出し、ハンマーで殴り殺そうとしたとき、その恐怖に震えた巨人が釣り糸を切ってしまい、決着は持ち越されました。この因縁は世界の終わり、ラグナロクにおいて、究極の相打ちという形で幕を閉じることになります。

現代への遺産 *木曜日 (Thursday) : ラテン語の「木星の日(Jove’s day)」を北欧語に翻訳した際、雷神トールの名前が当てられ「Thor’s Day」となりました。 *ポップカルチャー : マーベルの「マイティ・ソー」では金髪の貴公子的ヒーローですが、神話本来の姿は「赤茶色の髭を蓄え、短気で大食漢な荒くれ者の大男」です。この人間味溢れる野生児のような姿こそが、本来のトールの魅力でした。
*オーディン : 尊敬する父だが、策略ばかりで気が合わないこともある。 *ロキ : 一緒に旅をしたり、女装して巨人の国に潜入したりする腐れ縁の悪友。 *ラグナロク : 大蛇との宿命を終え、守護神としての任務を全うする最後の戦場。